なぜ「正しく実行」してもプロジェクトは失敗するのか? PM/PMOが陥る「実行の罠」とPPM(プロジェクトポートフォリオマネジメント)の本質
多くの組織で、優秀なプロジェクトマネージャー(PM)やPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)ほど疲弊しています。
- 「QCD(品質・コスト・納期)は守っている」
- 「ガントチャートは完璧に管理している」
- 「ステークホルダーとの調整に日々奔走している」
これらは「実行」のプロフェッショナルとして、非常に重要なスキルです。
しかし、皮肉なことに、「正しく実行」すればするほど、どうにもならない「壁」にぶつかっていないでしょうか。
- PMの悩み: 「このプロジェクトは重要だと訴えても、なぜかエース人材がアサインされない」 「順調だったのに、突然の横やりで優先度が変わる」
- PMOの悩み: 「全プロジェクトからリソース要求が殺到し、調整が限界」 「経営は『全部やれ』、現場は『限界だ』の板挟みで、レポート作成に忙殺される」
もしあなたがこの「壁」を感じているなら、それはあなたの「実行」スキルが低いからではありません。
あなたが、組織の「構造的な欠陥」の最前線に立たされている証拠なのです。

敵は「人」ではなく「構造」にある: "Run" vs "Change"
なぜ、リソースの奪い合いは起きるのでしょうか?
その根本原因は、現代の企業が抱える「2種類の異なる業務」の構造的な対立にあります。
- Run the Business(定常業務):
既存のビジネスを「効率よく、安定的に回す」オペレーションです。営業部、製造部といった「縦割り(サイロ)組織」で最適化されています。 - Change the Business(変革業務):
新しい価値を生み出し、「会社を変革する」プロジェクトです。部門横断の「横串(プロジェクト)」で推進されます。
あなたが推進する「Change(プロジェクト)」が、「Run(定常業務)」のKPI(例:営業部長の売上目標)と衝突した時、何が起こるでしょうか?
「全社DXのために、営業部のエースAさんを3ヶ月ください」 (PM/PMO)
「ダメだ。Aさんを抜かれたら今月の売上目標(Run)を達成できない」 (営業部長)
この構造的な対立において、多くのPM・PMOは「調整役」や「火消し役」として、リソースの板挟みに遭い、疲弊します。これは「PPM(=投資判断の仕組み)」

「実行リーダー」の市場価値は、なぜ頭打ちになるのか
さらに深刻なのは、この「実行(How)」スキルだけでは、あなたの市場価値が頭打ちになるリスクがあることです。
- AIによる代替: 「管理業務(レポーティング、集計)」は、AIによって自動化されやすい領域です。
- コストセンター認識: 「利益」を生む部門ではなく、「コスト(管理費用)」を使う部門と見なされがちです。
これからの時代に求められるのは、単なる「実行リーダー」ではありません。
「どのプロジェクトに投資すべきか?」
「なぜ、それをやるべきか?(戦略貢献度は?ROIは?)」
という「What/Why」を問い、経営陣と「戦略」を語れるリーダー、すなわち「真の経営参謀」です。
そして、この「戦略リーダー」へのシフトを実現する最強の武器こそが、PPM(プロジェクトポートフォリオマネジメント)なのです。

【PPMの本質】 あなたがPPMを誤解しているかもしれない理由
ここで、経験者ほど陥る「PPMの罠」についてお話しします。
PPMとは何でしょうか?
- 「プロジェクトが集まった、もっと大きな“プログラム”のこと?」
- 「あのBCGマトリクス(花形、金のなる木…)のこと?」
これらは間違いではないですが、本質ではありません。
PPMの本質は「規模」や「包含関係」ではなく、管理する「目的」と「問い」が全く違う点にあります。
- プロジェクト(PM)の問い:
「いかに効率よく、正しく実行するか?」(Doing things right)
→目的は「完成させる」ことです。 - ポートフォリオ(PPM)の問い:
「そもそも、我々は何を“やるべき”で、何を“やめるべき”か?」(Doing the right things)
→目的は「組織全体の戦略的価値を“最大化”する」ことです。
つまり、PPMとは「進捗管理」の上位互換ではなく、「投資判断」そのものなのです。
PPMは、経営層が語る「戦略(言葉)」と、現場が動かす「実行(行動)」の間にある、深くて暗い「谷」に橋を架ける、「戦略翻訳エンジン」なのです。

PPMの真価は「合理的な“Kill”」にある
PPMの本質が「投資判断」であるならば、その実践の場はどこでしょうか。
多くの組織がPPM導入で失敗する最大の理由は、PPMを「分析ツール」だと勘違いすることです。
素晴らしい「評価基準(モノサシ)」を作り、美しい「バブルチャート」を作成する。…そして、その分析結果は「報告」され、棚に飾られる。
分析(Analysis)は「インプット」であり、目的ではありません!
PPMの本質は、「ガバナンス(Governance)」です。
つまり、分析結果に基づき、「Go(実行承認)」と「Kill(中止・保留)」の意思決定を下す、公式な「経営プロセス(会議体)」 そのものなのです。
「Go(やろう)」の判断は簡単です。
PPMの真の価値は、「合理的で、非情な“Kill(やめる)”」の意思決定にあります。
なぜ「中止」の判断は、これほどまでに難しいのでしょうか?
- サンクコスト(埋没費用)の呪縛: 「ここまでやったんだから、今さら止められない」
- 政治的理由・抵抗: 「これは〇〇役員の“ペット・プロジェクト”だから、誰も止められない」
PPMは、これらの「主観」や「政治」と戦うための武器です。PPMガバナンスが提供するのは、以下の2つです。
- 客観的な「データ」: 「あのプロジェクトは戦略貢献度が低い(スコア1.8)」という、全社共通の「モノサシ」
- 公式な「プロセス」: 「ポートフォリオ・レビュー会議」という“場”
この「データ」と「プロセス」によって、意思決定は「〇〇役員 vs 現場PM」という属人的な対立から、「客観的データに基づく、組織としての合理的な判断」へと昇華されます。
「実行」だけを担うPM・PMOは、組織の「構造」に疲弊させられます。
「戦略」を担うPPMリーダーは、「構造」そのものを設計し、経営の意思決定を主導します。
あなたは、どちらのリーダーでありたいですか?

さらに深く学びたい方へ
今回の記事では、PPMの本質である「WHY(なぜ)」と「WHAT(何を)」、特に「ガバナンス」という側面に焦点を当てて解説しました。
しかし、この「戦略リーダー」になるためには、具体的な「HOW(どうやるか)」と「PRACTICE(実践)」が不可欠です。
- 「HOW」: どうやって、自社の曖昧な戦略を「客観的な評価基準(クライテリア)」という“モノサシ”に落とし込むのか?
- 「PRACTICE」: 点数を入力するだけで「バブルチャート」が瞬時に、自動で更新される「実務的なExcelツール」をどうやって作るのか?
- 「PRACTICE」: そのマップを使い、「リソースが足りない」と訴える経営陣(CIO)に対し、AIロールプレイで「Go/Kill」の提言(対話術)をどう行うのか?
これら全ての実践的な技術と、すぐに使える「自動更新PPMバブルチャート・テンプレート」、さらにAIを活用してPPM業務を高速化するプロンプト集までを網羅したUdemyコースを公開しました。
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