「管理は完璧なのに、事業貢献を実感できない」という中堅PMのジレンマへ

「進捗はオンスケジュールです。課題管理も徹底しています。予算も範囲内です」
プロジェクトマネージャー(PM)として、これ以上の報告はありません。 しかし、ステークホルダーや経営層への報告を終えた後、ふと虚しさを感じることはないでしょうか。
「で、結局このプロジェクトは、会社にいくら儲けさせたんだっけ?」
もしあなたが、日々のWBS更新や調整業務に忙殺されながらも、心のどこかで「自分はただの『高度な事務係』ではないか?」という疑念を抱いているとしたら・・・
あなたは今、多くの中堅PMが直面する「管理の壁」の前に立っています。
この記事では、PMBOK第8版という最新の潮流を補助線に、私たちが「管理者(Administrator)」から「戦略家(Strategist)」へと進化するための思考法についてお話しします。
「守りのPM術」は、プロとしての入場券に過ぎない
私たちは長い間、「QCD(品質・コスト・納期)を守ること」こそがPMの正義だと教わってきました。
- 詳細なWBSを引き、タスクの抜け漏れを防ぐ。
- 変更管理プロセス(CCB)を回し、スコープクリープを阻止する。
- 進捗の遅れを早期に検知し、リカバリする。
これらは、プロジェクトの秩序を維持するための「守りのPM術」です。 SIerであれ事業会社であれ、これができなければプロジェクトは炎上します。
その意味で、守りのスキルはプロフェッショナルとしての「入場券」であり、信頼の源泉です。
しかし、残酷な事実をお伝えしなければなりません。
「入場券」だけでは、ビジネスというリングで戦うことはできないのです。
経営層や事業責任者にとって、QCDの遵守は「当たり前」です。彼らが見ているのは、「その投資(プロジェクト)が、どれだけのリターン(価値)を生んだか」という一点のみです。
ここに、「現場の管理(守り)」と「経営の期待(攻め)」の断絶があります。
PMBOK®第8版が示した「パラダイムシフト」
プロジェクトマネジメントの国際標準であるPMBOK®ガイドも、この変化に気づいています。
2025年11月(English Edition)にリリースされた最新の第8版で起きた変化は、単なる版の更新ではありません。
「思想の転換」です。
象徴的なのが、「コスト(Cost)」から「ファイナンス(Finance)」への名称変更ではないでしょうか(※英語版ドラフト等に基づく解釈)。
- Cost: 費用。減らすべきもの。管理の対象。
- Finance: 財務・資金。価値を生むための資源。投資の対象。
これは、PMに対し「予算を守る番人(経理担当)」から、「資金を使ってリターンを最大化する投資家」へと進化せよ、というメッセージに他なりません。
「攻めのPM術」:思考を書き換える
では、私たちはどうすれば「投資家」や「戦略家」になれるのでしょうか。 明日からいきなり経営会議に出ろという話ではありません。
現場での「思考」を少し書き換えるだけでいいのです。
1. WBSを「タスクリスト」から「防衛線」へ

中級者はWBSを「やるべきことリスト」として作ります。
上級者はWBSを「やらないことを定義する防衛線」として設計します。
「ここまではやる。ここからはやらない(Out of Scope)」という境界線を、契約や合意形成の段階で緻密に引くこと。
これにより、現場の疲弊を防ぎ、生み出した余力を「価値創出」のための思考に充てるのです。
2. 交渉を「伝書鳩」から「トレードオフ」へ
クライアントや上層部から無理難題が来た時、「持ち帰ります」と言っていませんか? それでは単なる伝書鳩です。
戦略家であるPMは、その場で「トレードオフ」を提示します。
「その機能追加は可能です(Yes)。ただし(But)、納期を2週間延ばすか、あるいは優先度の低い検索機能を削減させてください」
相手に「痛み分けの選択」を迫り、ZOPA(合意可能領域)を見つけ出す。 この「交渉力」こそが、プロジェクトの価値を守る攻めのスキルです。

3. AIという「参謀」を使いこなす
そして今、私たちには生成AIという最強の武器があります。 報告書の要約、リスクの洗い出し、スケジュールのたたき台作成。これら「作業」はAIに任せることができます。
AIに仕事を奪われるのではありません。 AIに「管理」を任せることで、私たちは人間しかできない「意思決定」と「対人折衝(政治力)」に、全リソースを集中できるようになるのです。
管理者から、戦略家へ。
「管理業務に追われて疲弊している」 そう感じるのは、あなたが今のステージ(管理者)を極め、次のステージ(戦略家)へ進む準備ができている証拠です。
プロジェクトマネジメントは、本来もっとクリエイティブで、ビジネスの根幹を揺るがすほどエキサイティングな仕事です。
「守り」の盾で信頼を築き、「攻め」の剣で価値を切り拓く。 そんな「二刀流」のプロジェクトマネジメントを、今こそ始めてみませんか?
さらに深く学びたい方へ
今回の記事でご紹介した「守り(管理)」と「攻め(価値創出)」の両立や、PMBOK第8版の最新動向、AIを活用した業務高速化について、体系的に学べるオンライン講座を公開しています。
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▼コースで学べること(抜粋)
- QCDを守り切る「SIer的」管理技術の応用
- ビジネス価値を最大化する「事業会社PO的」思考法
- 経営層を動かす「ROI(投資対効果)」による交渉術
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