「正論」で組織は動かない。PM・PdMが習得すべき、大義を完遂させるための「組織内政治」

プロダクトマネージャー(PM)やプロダクトマネジメントを主導するリーダー(PdM)にとって、最も過酷で、かつ避けて通れない真実があります。それは、「正論を磨けば磨くほど、組織は動かなくなる」というパラドックスです。

PMBOK®やアジャイルの知識を駆使し、非の打ち所がないロードマップや、精緻なリスク分析を用意したはずなのに、現場からは「できない言い訳」が噴出し、上位層の気まぐれな一声で決定が覆される。こうした経験に、多くのリーダーが疲弊しています。

しかし、これはあなたの論理の精度の問題ではありません。「論理性(正しさ)」という評価軸だけで組織を動かそうとするアプローチのミスマッチです。人を動かすのは、論理だけではなく「感情」と「利害」であるという冷厳な現実。この現実を乗りこなすための技術こそが、本稿で提唱する「組織内政治」です。



1. 組織政治の再定義:大義を完遂させるための「知恵」

一般的に「組織政治」という言葉は、利己的な引きずり合いや不透明な調整といった否定的な文脈で語られがちです。しかし、プロダクトマネジメントの実務における組織政治の本質は、全く異なります。

それは、「異なる動機を持つ人々を束ね、大義(プロダクトの成功)を完遂させるための知恵」です。

PM・PdMは多くの場合、プロダクトの成否という重い「責任」を負いながらも、他部署の人間を動かす直接的な「人事評価権(権限)」を持っていません。この「権限なき責任」という不条理な構造下で、周囲の協力を引き出し、ビジョンをユーザーに届ける。その過程で発生する摩擦をコントロールし、合意を形成する実務的な防衛技術が、組織内政治なのです。



2. 「利得」よりも「損失(地雷)」に焦点を当てる

組織という集団において、人は「何が正しいか」という正論よりも、「自分にとっての利得は何か、損失は何か」というインセンティブに基づいて意思決定を行います。

ここでPMが陥りがちな罠が、「この提案にはこれだけのメリットがあります」という利得の強調に終始することです。しかし、行動特性上、人は「利得」よりも「損失」に対して遥かに敏感に反応します。

優れた提案が拒絶される時、反対者は提案のメリットを疑っているのではなく、その提案によって生じる「自分の管轄組織の工数増」「説明責任の増大」「面子の喪失」といった、個人的な「損失(地雷)」を恐れています。

深みのある合意形成とは、相手の表面上の正論を鵜呑みにせず、その裏にあるインセンティブをプロファイリングし、相手が恐れている「地雷」を特定して、あらかじめそれを埋める(あるいは回避する)作業に他なりません。この「損失への配慮」こそが、合意への最短ルートとなります。


3. 生成AIによる「正論バイアス」の破壊とメタ認知

組織政治の局面において、最大の障害となるのは、実はPM自身の「主観」と「感情」です。「なぜ自分の正しい提案が分かってもらえないのか」という怒りや不安は、状況を冷静に分析する力を奪います。

ここで有効なのが、生成AIを「客観的思考のシミュレーションツール」として活用する手法です。

具体的には、以下の3つのステップを踏みます。

  1. 情報の変数化(匿名化):実名を伏せ、状況を変数化してAIに入力することで、自分自身の脳から感情的なバイアスを排除します。
  2. レッドチーム思考:AIに「徹底的な反対派リーダー」を演じさせ、自身の提案を攻撃させます。これにより、自分では気づかなかった「政治的な死角」を事前に洗い出します。
  3. メッセージの翻訳:自分にとっての正論を、相手の行動特性(論理重視、関係重視など)に合わせた「納得感の高い言語」へと翻訳します。

AIを単なる文章作成ツールではなく、自己のバイアスを破壊し、メタ認知を拡張するための装置として組み込む。これにより、人間関係の複雑さを「攻略可能な構造」へと変換できるのです。


4. PMは「意思決定のデザイナー」である

PM・PdMの本来の役割は、上位者の指示を現場に伝える「伝言役」でも、要望をリストアップする「調整役」でもありません。その真髄は、「意思決定をデザインすること」にあります。

特に複数の上位者の間で板挟みになった際、どちらに従うかを悩むのは二流です。プロフェッショナルは、両者の主張の裏にある懸念をトレードオフの構造として可視化します。その上で、双方の懸念を構造的に解消する「第3の案(C案)」を自ら設計し、提示します。

決定権(キャスティングボート)を握るのは上位者であっても、その判断材料と選択肢を設計するのはPM自身です。この舞台装置を整える技術こそが、停滞する組織を動かす真の影響力となります。

また、政治に「100%の勝利」はありません。万が一、プロジェクトの中止といった「政治的敗北」を喫した際でも、それを「失敗」ではなく「次への英断」として再定義するナラティブ(物語)の構築。このダメージコントロールまでが、意思決定のデザインに含まれます。


終わりに:プロダクトを守るための「誠実な技術」

組織を動かす技術を磨く目的は、決して誰かを出し抜くことではありません。

優れたビジョン、そしてチームが血の滲む思いで作ったプロダクトが、組織の不条理によって沈没することを防ぎ、ユーザーに本来の価値を届けるためです。そのために「異なる動機を持つ人々」のインセンティブを理解し、一歩ずつ合意を積み上げていく。

組織政治のスキルとは、プロダクトマネジメントを完遂させるための実務上の武器であり、プロフェッショナルとしての「誠実さの裏返し」なのです。


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